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最高裁判所第三小法廷 昭和27年(あ)3278号 判決 1953年12月22日

主文

本件上告を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

弁護人石黒武雄の上告趣意第一点について。

論旨は、原判決には憲法三八条三項に対する違反がある、と主張する。しかし当裁判所の判例(昭和二三年(れ)七七号同二四年五月一八日大法廷判決)に従えば、憲法三八条三項において被告人本人の自白に補強証拠を必要としている趣旨は、被告人の主観的な犯罪自認の供述があっても、客観的に犯罪が全然実在せず、全く架空な場合があり得るのであるから、大体主として客観的事実の実在については補強証拠によって確実性を担保することを必要としたものと解せられるのである。だから、被告人の自白と補強証拠と相待って全体として犯罪構成要件たる事実を認定し得られる場合においては、必ずしも被告人の自白の各部分につき一々補強証拠を要するものとは考えられない。ひるがえって本件を観るに、第一審判決の挙示する牛久保平八郎の司法警察員及び検察事務官に対する各供述調書は、同人が判示の頃被告人に判示金員を判示のような趣旨で渡したのに、一向教員住宅の修繕をした様子も見えなかったという趣旨の証拠であって、この証拠は被告人の自白が真実であっても架空でないことを推認せしめるに足るものと解せられる。してみれば第一審判決は被告人の自白を唯一の証拠としてこれを有罪としたものではなく、従ってこれを是認した原判決に所論のような憲法違反があるとは言い得ない。論旨は理由がない。

同第二点について。

論旨は、原判決が憲法三一条に違反していると主張するのであるが、その実質は審理不尽に基く事実誤認の主張に帰着し、適法な上告理由とならない。

同第三点について。

論旨も亦審理不尽による事実誤認の主張であって、適法な上告理由とならない。

同第四点について。

論旨は単なる訴訟法違反の主張であって、適法な上告理由とならない。(なお所論の控訴趣意補充書は、控訴趣意書提出最終日を一八日経過した後に出されたものであって、その内容も期間内提出の被告人の控訴趣意書を補充しただけでなく、新な論旨を述べたものである。そうしてその提出の遅延がやむを得なかったと認められるような事情も見出されないし、また公判廷において該書面に基き弁論したことによって、遅延の瑕疵が治癒されるものとも認められない。それ故原判決には所論のような違法はない。)

なお記録を調べてみても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四〇八条、一八一条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)

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